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T様(女性 83歳)は、夫と孫家族4人の6人で暮らしです。
高血圧、糖尿病、変形性久関節症の既往歴があります。
約2年前の4月に栗原ホーム第2ケアセンターのご利用を開始されました。
その当時は、介護度1で歩行器で自力移動が可能でしたので、自宅のトイレもお風呂も介助を必要とせず入ることができていました。
ところが6月某日、逆流性食道炎を起こし入院してしまいまったのです。
幸い約1か月で退院となりましたが、この間に自立歩行ができなくなり、立位は介助があれば可能でしたが移動は車椅子となりました。家族は在宅での介護が不安で、退院後はそのまま老健へ入所となりました。老健は在宅復帰のための施設です。
しかし、T様の『自宅で暮らしたい』という強い希望で、2か月で老健を退所され、ご自宅に戻られることとなったのです。
さて、自宅に戻れたT様。
待ち受けていたのは、移動を伴う生活のほとんどに人の手を借りなければならない毎日でした。
老健で週1回のリハビリを受けてはいましたが、退院後2か月経過しても状況に変化は見られず、車いすを利用、トイレもお風呂も家族の介助が必要でした。
自宅でのお風呂がままならなかったため、デイサービスの利用が3か月ぶりに再開となりました。
お仲間のご利用者様も私たち職員も再会を喜び合いました。
お風呂の問題は解消され、まずは一安心です。
ところがT様自身もご家族にとっても一番の問題だったのが、夜間のトイレだったのです。
夜、どうしても2~3度はトイレで起きるのですが、そのたびにご主人様が起きて介助してくれているので、T様はとても申し訳なく思っていたのです。
T様は「昼間、あまり水分を取らないようにしてトイレの回数を減らしたい」とまでおっしゃるのでした。
高齢者が脱水を起こす典型例です。
在宅生活を支えるにあたって 相談員、介護士、機能訓練指導員など全職種が支援の方針を共有しました。
通所介護の目標は『家で自力移動できるようになる』
機能訓練の3ヶ月目標を
『デイサービスで杖、手すり、歩行器でトイレまで歩行移動する』
とし
T様には【機能訓練Ⅰ(*1)】【機能訓練Ⅱ(*2))】の両方に取り組んでいただくことにしました。
具体的には午前中の【機能訓練Ⅰ】で身体全体の柔軟性を高め、筋力の維持・増強を図る運動と、さらに、バランス訓練、呼吸改善、全てを網羅した訓練を行います。
午後からは【機能訓練Ⅱ】1対1で。
T様は変形性膝関節症で左膝を手術なさったこともありましたので、まずはホットパックで両膝回りを温めてから上下肢の筋肉のストレッチ、可動域訓練、膝関節のアライメント調整、下肢中心の筋肉トレーニング、膝関節の関節包内矯正を行うことになりました。
この日からT様は毎日すべての機能訓練に参加し、訓練が終了するまでは大好きな入浴(*3)をしないという積極性を見せてくださいました。
(*1)機能訓練Ⅰ…運動機能の維持向上のための訓練が受けられる通所介護の加算サービス
(*2)機能訓練Ⅱ…生活するために必要な動作の維持向上のための訓練が受けられる通所介護の加算サービス
(*3)職員見守り又は介助などの支援を得ながらデイのお風呂を利用できる加算サービス
デイサービスに通い訓練と入浴サービスを受けることで、生活リズムも整い始めました。
ですが、機能訓練はじっくりと取り組むと健常者でも汗がにじむほどです。
T様は本当に頑張って取り組まれ、職員も頭が下がる思いで見守りました。
ご利用者様からも訓練中のT様に、
「Tさん、すごいね、がんばるね」
「もうこんなに歩けるの?」
の応援エールがかかります。
この声掛けに「ますます頑張らなくちゃ」と何度もおっしゃっていました。
「ひとりでは辛い訓練も、一緒に行う仲間や応援してくれる職員がいることで続けられる」
ともおっしゃっていました。
そして約3週間後。
立位がしっかりと安定してこられました。
次は歩行器を使っての歩行訓練です。
ゆっくりゆっくり 膝の内側の痛みを回避しながら“足の使い方”を練習していきます。
《歩行》とは筋力がつけばできるものではなく、動かし方のおさらいが必要なのです。
約3週後。
歩行器で自席よりトイレまで歩けるようになりました。
『トイレにひとりで行ける』という初期の目標は2カ月半で達成できました。
この2ヶ月半の間で、生活にも変化がありました。
それまでシャワー浴をしていましたが、T様の動作を見ていた介護士より
『浴槽に入れるのではないか』と相談員へ提案がありました。
栗原ホーム第2ケアセンターのお風呂は、なだらかな階段を下りて入る浴槽なのです。
さっそくケアプランを変更し浴槽に入ることに。
介護士がしっかりと介助に入りながらゆっくりと歩を進めるT様。
浴槽に入って肩までつかったT様は
「身体が温まる~気持ち良いわ」と大変喜ばれていました。
それは単に肩までお湯につかれたという喜びだけではなかったと思います。
ここで目標を次の段階に進め、さらに移動の際の家での実用性を考えてバーでのつかまり歩きを加えました。
家でリビングからベットまで伝い歩きをしていたら、ご主人が手を差し出してくれて、とてもうれしかったそうです。
さらに1か月後からは二本杖(両手で杖をつく)歩きに。
少し怖いとおっしゃりながらゆっくり歩かれる。
歩ける!
歩ける!!
自信がついたT様は
「家でもやってみよう」と言って下さいました。
後日、家で歩こうとすると ひ孫さんが杖を持ってきてくれるようになり、とてもうれしかったおっしゃっていました。
訓練開始から半年後、安定した4点杖(片側杖)歩行。
デイルーム内、トイレ、浴室で歩ける状態となりました。
杖一本だとグンと機動性がよくなり、動きが一段と軽やかになりました。
そしてT様の念願の『夜間のトイレに一人で行く』です。
自宅ではもう人の手を借りずに、つかまりながら歩けるようになっていました。
T様が気にされていた夜間も一人で行けるようになりました!
気にされていた水分の摂取も気になりません!
リビングへ好きな時に自由に移動ができるようになり、家族の負担も減りましたし、ベッドからリビングへと居場所が変わったことで家族とのコミニケーションも多く図れるようになりました。
推測の域ですが、もし、老健退所を強く望まなければ寝たきりになっていたかももしれません。
あまり知られていませんが、デイサービスは在宅生活を維持向上するための機能が集約されています。
訓練も、栄養も、衛生も、生きがいも。
多くの方にデイサービスを利用していただきたいと思います。
栗原ホーム第2ケアセンター
機能訓練指導員 生活相談員 介護士